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消された一家

消された一家―北九州・連続監禁殺人事件 (新潮文庫)

消された一家―北九州・連続監禁殺人事件 (新潮文庫)

金田一で"天才殺人鬼"なんてフレーズがありますが、主犯の松永は間違いなくそれでしょう。しかも突発性の通り魔とかではなくて、内縁の妻および親族その他をすべて監禁の上、隷属下に置いて、自分自身は一切手を下さずに(殺せと命令することすらなく)、7人もの人間を死に追いやったのだからすさまじいです。まして支配下に置いた親族は老若男女取り揃っており、果てに若い元警察官までいたというのは、マインドコントロールがいかに強固で完璧だったかという、なによりの証明です。自分が同じ状況に置かれたとき、対抗できるかといわれると疑問です。本を読んでいるときは他人事なものですから、「松永が寝てる間にさっさとその通電道具を奪い取って反撃しろYO!」とか思ってしまうのですが、被害者達はまったく反抗ができない心理状態に陥ってしまっていて、何もアクションを起こさないのがいじらしい(松永が外出中、殺害を回避しようと被害者同士が互いに知恵を絞る場面もあるのですが、結局通電の恐怖に屈服してしまいます)。
こうなるとどうしても主犯・松永の性格や生い立ちが気になりますが、あくまで表面上は明るく礼儀正しく、さすがに服役中は塞ぎこんでいるかと思いきや、堂々とあいさつをするので周りの囚人からもさわやかな人と思われているらしいです。弁舌の巧みさが折り紙つきなのは、事件概要や裁判での証言でもうかがい知れます。虐待に使用する通電道具を改良したこと、人の些細な発言を事細かに記憶していること、死体の解体方法を自ら編み出したりするなど、頭の回転が早いのは間違いなく、道さえ誤らなければ大きな会社の経営者や政治家にでもなっていそうな人です(一応小さな会社は営んでいたようですが、やっていることは詐欺でした)。
2011年に松永は死刑が確定しています。最高裁で刑が確定するまで、罪を認めて自らの言葉で事件の真実を語ることがついになかったかの思うと、筆者もあとがきで書いているとおり、残念な気がします。